る」
と富士男が走った、一同もかごのそばによった。
「なぜだい兄さん、ぼくだ」
「いや、弟の罪は兄の罪だ、ぼくがはじめこの計画をたてたとき、ぼくはすでに、覚悟《かくご》していたのだ」
「うそだ、兄さん、ぼくにやらして」
「おまえはまだ小さい、空にあがるだけではなにもならないのだ、敵状《てきじょう》を視察《しさつ》することができないと、なにもならない」
「そのくらいのこと、ぼくだってわかってるよ」
と次郎が抗弁《こうべん》した。
弟をかばい、兄をかばう、兄弟の美しい愛情を見て、ドノバンはたまらなくなっていった。
「争《あらそ》っていては時間がたつ。この大任はぼくにあたえてくれたまえ」
「いや、ドノバン君、それはいけない、ぼくは決心しているのだ」
富士男はこういうと、次郎をおろして自分がかわった。
「そうだ、これは富士男君の緻密《ちみつ》な頭脳《ずのう》と、勇気に信頼《しんらい》したほうがいい」
とゴルドンがいった。
「みな、まえのように受け持ちの位置《いち》についてくれたまえ」
ゴルドンの一言が厳粛《げんしゅく》に響《ひび》いた、一同は位置についた。
絞車盤《こうしゃばん》が糸をのばしはじめた、富士男を乗せたたこは、じょじょにのぼってゆく、一同はただ黙然《もくねん》とあおいで、そのゆくえを見まもった、せき一つするものもない。
すーとかごが地をはなれたとき、富士男はめまいを感じた、かれはウンと腹に力を入れて息をすった、さいわい、たこはかたむきもせず頭もふらず、きわめて動揺《どうよう》が少ない、かれはかごの四方をつった縄《なわ》をしっかとにぎった、と、ブルンとたこがうなって、ひとゆれがきた、からだが一しゅんブルブルとふるえた、それはおそろしいような、こそばゆいような、名状《めいじょう》のできない感じであった。十分間ばかりしたころ、たちまち物につきあたったようなひびきがあって、かごがゆらゆらとゆれた、富士男は時間からおして、たこの糸《いと》がのびをはったのだと知った。
片手で縄《なわ》をにぎり、片手で望遠鏡をとって、四方を見おろした、湖水も、林も、岩壁《がんぺき》も、すべては墨汁《ぼくじゅう》をまいたようで、眼にはいるものはない、ただそれと知れるのは、島をかこむ海水と平和湖の水色ばかりである、北南西の三方はみな重々《ちょうちょう》たる密雲でとざされ、東の一
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