してすがたを見せないと、完全した歯が一|朝《ちょう》にしてぬけおちたようで、なにかたよりない、しっくりと気持ちのあわない空気を感じる。
春色は日ましにこくなるに、一同は毎日うつうつとして楽しむふうもない。富士男はこれを見るのがなによりもつらかった。
「もっとほかにいい方法がなかったろうか、もっと考慮すべきではなかったろうか」
こう思うと、一時の激情《げきじょう》にかられて、四人を除名《じょめい》したことが、深くくいられてならなかった。日ごとの煩悶《はんもん》はかれの血色のいい頬《ほお》をあおくした。いつも清くすんだ眼は悲しみにくもった。
「おい、富士男君! なにをぼんやりしているんだい、こんなすてきなニュースがあるのに……」
と、ゴルドンがニコニコして、富士男のかた先を軽くたたいた。かれは富士男の苦悩《くのう》は十分に推察《すいさつ》した、けれど、責任者の地位にあるふたりが、しずんだ顔色を一同に見せては、連盟の士気がいよいよ沮喪《そそう》してしまう。その結果は重大である。こう思ったかれはむりにもはればれと元気を出した。
「モコウのやつがとてもこっけいなんだよ」
「どうして?」
と富士男がしずんだ声でいった。
「鼻の頭にまっかなおでき[#「おでき」に傍点]ができたんだ。まるで噴火山《ふんかざん》のようにみごとなんだ、みんながはやしたてるんで、鼻をかくして台所へ逃げていって、出てこないんだよ。ハハハハ」
「……」
「善金《ゼンキン》のやつは大ねずみに鼻をかじられたよ」
「どうして?」
と富士男はまえよりもやや明るい声でいった。
「それがおもしろいんだ、寝しなにこっそり砂糖をなめたらしいんだ、夜中に口のあたりをペロペロとなめるやつがある。びっくりして眼をさますと、大きなねずみが何匹も何匹も顔をなめている、かれがおっぱらうと、一匹が鼻の頭をかじって逃げたんだ。善金《ゼンキン》は大憤慨《だいふんがい》さ。なにか支那の格言《かくげん》のようなことをいった。エーと、身体《からだ》は両親のもの……それからなんだったかな」
とゴルドンが頭をひねった。
「身体髪膚《しんたいはっぷ》これを父母にうく、あえて毀傷《きしょう》せざるは孝《こう》のはじめなりさ」
「そうだそうだ、ねずみふぜいに鼻をかじられては両親にすまないってんだね」
「からだをたいせつにして勉強するのが、孝行の第
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