つんざくごうぜんたる霹靂《へきれき》! 数間先のぶなの大木がなまなましくさかれて風におののいている。
「助かった」
 と一同はホッとして顔を見あわせた。
「早くこの林をぬけださねばあぶないぞ」
 雨と風にさいなまれながらも、屈せずたゆまず、あえぎあえぎ道をいそいだ。あらしの中に日が暮れた。四人はめくらめっぽうにすすんだ。と風のなかに遠くほえるようないんいんたる別様《べつよう》のひびきが耳をうつ。それは森をへだてておこるようだ。
「待て!」
 と、ドノバンが立ちどまった。
「きこえるか」
「波の音のようだ」
「そうだ、ぼくらはとうとう目的地へついたのだ」
「万歳!」
 かれらは急に元気をとりかえした。
 森をぬけると視野《しや》はかつぜんと開けて、砂浜の先に、たけりくるった黒い海が、白いきばをむきたてて、なぎさをかんでいる。黒闇々《こくあんあん》のなかに白く光る波がものすごい。
「あっ! ボートだ!」
 とイルコックがさけんだ。
 指さす左のほうに、右舷《うげん》を砂浜に膠着《こうちゃく》さして、一せきのボートがうちあげられているのが、かすかにそれと見える。
「あっ人間だ」
 ウエップがさけんだ。
 ボートから十メートルほど左の、引《ひ》き潮《しお》がのこした海草の上に、二個の死体が、一つはあおむけに、一つはうつぶせに横たわっている。
 あまりのおどろきに、一同はしばし声もえたてず、石像のごとく立っていた。
「何者だろう」
 とドノバンが小声でいった。
 一同は顔を見あわした。恐怖《きょうふ》と好奇《こうき》の無言のうちに、四人は死体のほうへすすんだ。死体は十数メートル先にほの白く光っていた。みだれた髪《かみ》が白蝋《はくろう》の顔にへびのようにくっついている。ぞっと戦慄が身内を走った。「ワッ!」と悲鳴をあげたウエップが、とつぜんかけだした。浮き足だった三人もつづいてかけだした。ぶなの林のなかに逃げこんで、一同はホッと息をついた。嵐《あらし》はいつやむ気配《けはい》もない。夜のやみにゴウゴウと林の鳴る音がものすごい、烈風にまきあおられた砂が、小石を混《こん》じてつぶてのように顔をうつ。一同は生きた心地もない。
「みんな手をにぎろう」
 とドノバンがいった。一同はかたく手と手をにぎりあった。
 雨がようやく小降《こぶ》りになった。東の空にあかつきの色が動きそめた。恐怖《
前へ 次へ
全127ページ中70ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング