らなかった、一方が中学生となり一方は豆腐屋となっても。
「ぼくはね、きみを時計《とけい》にしてるんだよ」と光一はいった。「きみに逢った時には非常に早いし、きみにあわなかったときにはおそいんだ」
「そうですか」
「重たいだろうね、きみ」
 光一はチビ公の荷を見やっていった。
「なあになれましたから」
「そうかね」と、光一はチビ公の顔をしみじみと見やって、「ひまがあったら遊びにきてくれたまえね、ぼくのところにはいろいろな雑誌があるから、ぼくはきみにあげようと思ってとっておいてあるよ」
「ありがとう」
「じゃ失敬」
 チビ公は光一にわかれた、なんとなくうれしいようななつかしいような思いはむらむらと胸にわいた、でかれはらっぱをふいた、らっぱはほがらかにひびいた、と一旦《いったん》わかれた光一は大急ぎに走りもどった。
「このつぎの日曜にね、ぼくの誕生日だから、昼からでも……晩からでも遊びにきてくれたまえね」
「そうですか……しかし」とチビ公はもじもじした。
「かまわないだろ、日曜だから……」
「ああ、そうだけれども」
「いいからね、遠慮せずとも、ぼくは昔の友達にみんなきてもらうんだ」
「じゃゆきましょう」
 光一はふたたび走って去った。雑嚢《ざつのう》を片手にかかえ、片手に画用紙を持ち両ひじをわきにぴったりと着けて姿勢正して走りゆく、それを見送ってチビ公は昔小学校時代のことをまざまざと思いだした。なんとなく光一の前途にはその名のごとく光があふれてるように見える、学問ができて体力が十分で品行がよくて、人望がある、ああいう人はいまにりっぱな学者になるだろう。
 そこでかれはまたらっぱをふいた、嚠喨《りゅうりょう》たる音は町中にひびいた。チビ公が売りきれるまで町を歩いてるその日の十二時ごろ、中学校の校庭で巌《いわお》はものほしそうにみんなが昼飯を食っているのをながめていた、かれは大抵《たいてい》十時ごろに昼の弁当を食ってしまうので正午《ひる》になるとまたもや空腹を感ずるのであった。そういうときにはかならずだれかに喧嘩《けんか》をふきかけてその弁当を掠奪《りゃくだつ》するのである。自分の弁当を食うよりは掠奪のほうがはるかにうまい。
「みんな集まれい」とかれはどなった。だが何人も集まらなかった、いつものこととて生徒等はこそこそと木立ちの陰《かげ》にかくれた。
「へびの芸当だ」とかれはい
前へ 次へ
全142ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング