ぶこと今日ほどさかんなときはない、しかし心をしずめ耳をそばだてて民衆の声を聞きなさい、かれらはこういっている。『首領がほしい』『私達を指導してくれる人がほしい』『レーニンがほしい』『ムッソリーニがほしい』『ナポレオンがほしい』と、いかなる場合にも団体は首領が必要である。首領は英雄である。フランス人は革命をもって自由を得た、しかし革命には十人をくだらざる首領があった、ローマの国民はなにを望んだか、シーザーにあらずんばブルタスであった。日本の国民はなにを望んだか、源《みなもと》にあらずんば平《たいら》であった、ナポレオンを島流しにしたのは国民であったが、かれを帝王にしたのも国民であったことをわすれてはならない。しかるに手塚君はなんのために英雄を非認するか、英雄いでよ、正しき英雄いでよ、現代の腐敗は英雄主義がおとろえたからである、ぼくのいわゆる英雄は活動写真の近藤勇《こんどういさみ》ではない、国定忠治《くにさだちゅうじ》ではない、鼠小僧次郎吉《ねずみこぞうじろきち》ではない、しかもまた尊氏《たかうじ》、清盛《きよもり》、頼朝《よりとも》の類《たぐい》ではない、手塚君の英雄でもなければ野淵君の英雄でもない、ぼくは正義の英雄を讃美する、いやしくも正義であれば武芸がつたなくとも、知謀がなくとも、学校を落第しても、野球がまずくとも、金持ちでも貧乏でも、すべて英雄である、この故にぼくはこういいたい、『すべての人は英雄になり得る資格がある』と」
 なんともいいようのない厳粛な気が会場を圧してしばらく水をうったように沈黙したかと思うと急に拍手喝采が怒濤のごとくみなぎった。手塚はどこへ行ったか姿が見えない。千三は呼吸もつけなかった。かれは光一の論旨には一点のすきもないと思った。
「畜生《ちくしょう》ッ、うまくやりやがった」
 こう思うとせっかくの復讐心《ふくしゅうしん》も一半《いっぱん》はくじかれてしまった。
「つまらない、こなければよかった」
 かれはいまいましさにたえかねて会場をでた。外は漆《うるし》のごとくくらい。ふりかえってみると学校の窓々からこうこうと灯《ひ》の光がほとばしっていた。千三は一種の侮辱を感じながら歩くともなく歩きつづけた。とかれは路傍《ろぼう》の石につまずいてげたのはなおをふっつりと切らした。
「大変だ」
 かれは途方《とほう》にくれた。
「なわきれが落ちてなかろ
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