そこから階段を昇った、昇りつめるとそれは明るいガラス戸のついた支那料理屋の二階であった、向こう側の呉服屋その隣の時計屋なども見える。
「私帰るわ」と文子はおどろいていった。
「いいじゃないの? ワンタンを一つ食べていきましょう」と新ちゃんがいった。
「でも……私」
「お金のことを気にしてるんでしょう、かまわないわ、この人達はねいま材木屋の前でお金を拾ったんですとさ、いくらおごらしてもかまやしない、ねえろば」
「ろばろばというなよ」とろばがいった。
 新ちゃんはだまってがま口をろばになげつけた。銀貨がざらざらとこぼれた。
「いくら使ったえ」と他のひとりがいった。
「二人前の切符《きっぷ》代だけもらったよ」と新ちゃんがいった。
「拾ったお金で活動を見たの?」と文子は仰天《ぎょうてん》していった。だれもそれには答えなかった。
「帰らして頂戴」と文子はなき声になった。
「帰ってもいいよ、どうせおれ達の仲間になったんだから、帰りたければ帰ってもいい」
「私が仲間?」
「おまえ達はだまっておいで」と新ちゃんは男共を制した、そうして文子にこうささやいた。
「こわいことはないのよ、あの人等はばかなんだから……でも文子さん、あなたも同じがま口の金を使ったんだからお友達におなりなさいね、そうしないとあの人等はお宅《たく》へいってお母《かあ》さんになにをいうか知れませんよ、ねえ、毎日でなくても、たまにちょいちょい私達と遊びましょう、ね、お母さんに知れたら困るでしょう」
 文子は呼吸もできなかった、実際すでに不正な銭のご馳走《ちそう》になったのである、こんなことが母に知れたら母はどんなに怒るだろう、怒られても仕方がないが、母が歎《なげ》きのあまり病気になりはしないか、それからまた兄さんは……兄さんの名誉にかかわることがあると……。
 哀《あわ》れ文子は四苦八苦の死地に陥《おちい》った、かの女は去るにも去られなくなった。と階段の音が聞こえてひとりの学生が現われた。
「やあ」
 文子は顔をあげた、それは兄の友の手塚であった。かれはロシアの百姓が着るというルパシカに大きな縁のあるビロードの帽子をかぶっていた。
「どうしたの? 文子さん」とかれはいった。文子は手塚の腕にすがりついてなきだした。
「お前達はどうかしたんじゃないか」と手塚はなじるように一同に向かっていった。
「なにもしないよ」とろばが
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