の厄介《やっかい》になった、それはかれの二歳のときである。
「しっかりしろよ、おまえのお父さまはえらい人なんだぞ」
伯父はチビ公をつれてこのねぎ畑で昔の話をした。それからというものはチビ公はいつもねぎ畑に立ってそのことを考えるのであった。
「この家をとりかえしてお母さんを入れてやりたい」
今日《きょう》もかれはこう思った、がかれはゆかねばならない、荷を肩に負うて一足二足よろめいてやっとふみとどまる、かれは十五ではあるがいたってちいさい、村ではかれを千三《せんぞう》と呼ぶ人はない、チビ公のあだ名でとおっている、かれはチビ公といわれるのが非常にいやであった、が人よりもちびなのだからしかたがない、来年になったら大きくなるだろうと、そればかりを楽しみにしていた、が来年になっても大きくならない、それでもう一つ来年を待っているのであった。
かれがこのあぜ道に立っているとき、おりおりいうにいわれぬ侮辱《ぶじょく》を受けることがある。それは役場の助役の子で阪井巌《さかいいわお》というのがかれを見るとぶんなぐるのである。もちろん巌はだれを見てもなぐる、かれは喧嘩《けんか》が強くてむこう見ずで、いつでも身体《からだ》に生《なま》きずが絶えない、かれは小学校でチビ公と同級であった、小学校時代にはチビ公はいつも首席であったが巌は一度落第してきたにかかわらず末席であった。かれはいつもへびをふところに入れて友達をおどかしたり、女生徒を走らしたり、そうしておわりにはそれをさいて食うのであった。
「やい、おめえはできると思っていばってるんだろう、やい、このへびを食ってみろ」
かれはすべての者にこういってつっかかった、かれはいま中学校へ通っている、豆腐おけをかついだチビ公は彼を見ると遠くへさけていた、だがどうかするとかれは途中でばったりあうことがある。
「てめえはいつ見てもちいせえな、少し大きくしてやろうか」
かれはチビ公の両耳をつかんで、ぐっと上へ引きあげ、足が地上から五寸もはなれたところで、どしんと下へおろす。これにはチビ公もまったく閉口した。
かれが今町の入り口へさしかかると向こうから巌がやってきた、かれは頭に鉢巻《はちま》きをして柔道のけいこ着を着ていた。チビ公ははっ[#「はっ」に傍点]と思って小路《こうじ》にはいろうとすると巌がよびとめた。
「やいチビ、逃げるのかきさま」
「逃
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