人の言なり。金ならずして斯くの如く同一なる問と、同一なる答との繰返さるゝはなかるべし。世に其問、其答の明瞭に過ぐるものは、おほむね不可能の事なり。繰返し来《きた》れる今日にありては、殊《こと》に不可能の事なり。呉にして越、火にして水を兼ねしめんとするものなり。
○使ふべきに使はず、使ふべからざるに使ふ、是れ銭金《ぜにかね》の本質にあらずや。疑義を挟むを要せず。
○一国、一家、一|人《にん》を分けてもいはず、金に就て論議の生ずるは、乏《とぼし》き時なり、少き時なり、お耻《はづ》かしくも足らぬ時なり。工夫も然り、有る時にせず、無い時にす。
○孰《たれ》か我邦《わがくに》の現状に見て、金は一切の清めなりといへる諺《ことわざ》の、遂に奪ふまじき大原理たるに首肯《うなづ》かざらんや。近世最も驚くべきは、科学の進みなりとぞ。
○貧人《ひんじん》が唯一の味方は、詩人なりと。げに然らん、詩人も唯一の貧人なれば。
○画《ゑ》をかく人々、字をかく人々に告ぐ。お金を払つて買つて下さるは、まことに難有《ありがた》いお方なり。併《しか》しながら大抵は、わからぬ奴なり。
○按ずるに筆は一本也、箸は二本也。衆寡《しうくわ》敵せずと知るべし。
底本:「日本の名随筆85 貧」作品社
1989(平成元)年11月25日第1刷発行
1991(平成3)年9月1日第3刷発行
底本の親本:「縮刷・緑雨全集」博文館
1922(大正11)年4月
入力:渡邉 つよし
校正:門田 裕志
2001年9月20日公開
2005年12月23日修正
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