いいね。どこにいるか、童女たち、琴を奥様におあげなさい」
 と言っている。さっきから大尼君らしいと中将は察して聞いていたのであるが、この家のどこにこうした大年寄が無事に暮らしていたのであろうと思い、老若《ろうにゃく》も差別のない無常の世がこれによってまた思われて悲しまれるのであった。盤渉調《ばんしきちょう》を上手《じょうず》に吹いて、
「さあ、それではお合わせください」
 と言う。これも相応に風流好きな尼夫人は、
「あなたのお笛は昔聞きましたよりもずっと巧妙におなりになったように思いますのも、平生山風以外に聞くもののないせいかもしれません。私のはまちがいだらけになっているでしょう」
 と言いながら琴を弾いた。現代の人はあまり琴の器楽を好まなくなって、弾き手も少なくなったためか、珍しく身にしむように思って、中将は相手の絃《いと》の音《ね》を聞いた。松風もゆるやかに伴奏をし、月光も笛の音を引き立てるようにさしていたから、いよいよ大尼君を喜ばせることになって、宵《よい》まどいもせず起き続けていた。
「昔はこの年寄りも和琴をうまく弾きこなしたものですがねえ、今は弾き方も変わっているかしれません
前へ 次へ
全93ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング