かったと思い、ひどく泣いていたと思うがそれからのことは何も記憶にない。今人々の語っているのを聞くとそれから多くの日がたったようである。どんなに醜態を人の前にさらした自分で、どんなに知らぬ人の介抱《かいほう》を受けてきたのかと思うと恥ずかしく、そしてしまいには今のように蘇生《そせい》をしてしまったのであると思われるのが残念で、かえって失心状態であった今日までは意識してではなくものもときどきは食べてきた浮舟の姫君であったが、今は少しの湯さえ飲もうとしない。
「どうしてそんなにたよりないふうをばかりお見せになりますか。もうずっと発熱することもなくなって、病苦はあなたから去ったように見えるのを私は喜んでいますのに」
 こう言って、尼夫人という緊張した看病人がそばを離れず世話をしていた。他の女房たちも惜しい美貌《びぼう》の浮舟の君の恢復《かいふく》を祈って皆真心を尽くして世話をした。浮舟の心では今もどうかして死にたいと願うのであったが、あのあぶない時にすら助かった人の命であったから、望んでいる死は近寄って来ず、恢復のほうへこの人は運ばれていった。ようやく頭を上げることができるようになり、食事もす
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