て、簾《すだれ》が騒がしく動く紛れに、その合い間から、普通の女房とは思われない人の後ろへ引いた髪が見えたから、尼様たちのお住居《すまい》にだれが来ておられるのかと驚きましたよ」
 と中将が言いだした。姫君が立って隣室へお行きになった後ろ姿を見たのであろうと少将は思い、まして細かに見せたなら多大に心の惹《ひ》かれることであろう、あの方に比べれば昔の方はずっと劣っておいでになったのであるが、まだ忘られぬように恋しがっている人であるからと少将は心に思い、ひとり決めではなやかに事の発展していくことを予期して、
「お亡《かく》れになった姫君のことがお忘れになれませんで困っていらっしゃいます時に、思いがけぬ姫君をお見つけになりまして、今では明け暮れの慰めにして奥様がお世話をしておいでになるのですが、そのお姿を不思議にお目におとめになりましたのでございますね」
 こう語った。そんなおもしろい事実があったのかと興味のわいてきた中将は、どうした家の娘であろう、それとなく今少将が言うとおりに美しい人らしくほのかに見ただけの人からかえって深い印象の与えられたのを中将は感じた。くわしく聞こうとするのであるが、少将は事実をそのまま告げようとはせずに、
「そのうちおわかりになるでしょう」
 とだけ言っているのに対して、にわかに質問をしつこくするのも恥ずかしくなり、従者が、
「雨もやみました。日が暮れるでしょうから」
 と促《うなが》す声のままに中将は出かけようとするのであった。縁側を少し離れた所に咲いた女郎花《おみなえし》を手に折って「何にほふらん」(女郎花人のもの言ひさがにくき世に)と口ずさんで立っていた。
「人から何とか言われるのをさすがに恐れておいでになるのですね」
 などと古めかしい人らはそれをほめていた。
「ますますきれいにおなりになってりっぱだね。できることなら昔どおりの間柄になってつきあいたい」
 と尼君も言っているのであった。
「藤《とう》中納言のお家《うち》へは始終通っておいでになると見せておいでになって、気に入った奥さんでないらしくてね、お父様のお邸《やしき》に暮らしておいでになることのほうが多いということだね」
 こんな話も女房相手にしてから、浮舟へ、
「あなたはまだ私に隔て心を持っておいでになるのが恨めしくてなりませんよ。もう何事も宿命によるのだとあきらめておしまいにな
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