か、女にだって私ほど安心してつきあえるものではありませんよ。それでも男ですから、あなたがたのまだ聞いていない新しい話も時にはお聞かせすることができるのですよ。おいおい私の存在価値がわかっていただけるだろうという自信がそれでもできましたからうれしく思っています」
こんな戯れを言いかけた。だれも晴れがましく思い、返辞をしにくく思っている中に、弁の君という少し年輩の女が、
「お親しみくださる縁故のない者がかえって私のように恥じて引っ込んでいないことになります。ものは皆合理的にばかりなってゆくものではございませんですね。だれの家のだれの子でございますからと申しておつきあいを願うわけのものでもありませんけれど、羞恥《しゅうち》心を取り忘れたようにお相手に出ました者はそれだけの御|挨拶《あいさつ》をいたしておきませんではと存じますから」
と言った。
「羞恥心も何も用のない相手だと私の見られましたのは残念ですね」
こんなことを薫《かおる》は言いながら室《へや》の中を見ると、唐衣《からぎぬ》は肩からはずして横へ押しやり、くつろいだふうになって手習いなどを今までしていた人たちらしい。硯《すずり》の
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