宮は手もとへ侍女にお迎えになった。女一《にょいち》の宮《みや》のお相手として置くのによい貴女《きじょ》と思召して、特別な御待遇を賜わって侍しているのであったが、お仕えする身であるかぎり、やはり宮の君などと言われ、唐衣《からぎぬ》までは着ぬが裳《も》だけはつけて勤めているのは哀れなことであった。兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は、この人だけは恋しい故人に似た顔をしているであろう。式部卿の宮と八の宮は御兄弟なのであるからなどと、例の多情なお心は、昔の人の恋しいために、新たな好奇心もお起こしになることがやまず、いつとなく宮の君を恋の対象としてお考えになるようになった。
人生は味気ないとこの女王についても薫は思うのであった。まだ昨今というほどのことではないか、東宮の後宮へお入れになろうと父宮がお思いになり、自分へも娶《めと》らせようとされた姫君である、栄えた人のたちまち衰えてゆくのを見ては、水へはいってしまった人はそれを見ぬだけ賢明であったかもしれぬなどと薫は思い、他の女房に対するよりもこの女王に好意を寄せていた。
六条院に中宮《ちゅうぐう》のおいでになることは、宮中のお住居《すまい》よりも広
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