《か》いた絵はよく自身の心持ちが写されているように思われる薫であった。その人のように成功すべき恋でないのが残念であった。

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荻《をぎ》の葉に露吹き結ぶ秋風も夕べぞわきて身にはしみにける
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 と書き添えたい気がするのであるが、そうしたことは気《け》ぶりにも知れたならばどんなことの言われるかしれぬ世の中であるからと、思うことすらも洩《も》らしがたい恋に心を悩ませ、はては宇治の大姫君さえ生きていてくれたならば、その人を妻とすることができていたのであれば、どんな人を見ても心の動揺することなどはなかったはずである。現代の帝王の御女《おんむすめ》を賜わるといっても、自分はお受けをしなかったはずである、また自分がそれほど愛している妻があるとわかっておいでになって姫宮をお嫁《とつ》がせになることもなかろう、何といっても自分の心の混乱し始めたのは宇治の橋姫のせいであると、こんなことを思ってゆくうちに薫の心はまた二条の院の女王の上に走って、恋しくも恨めしくもなり、取り返されぬ昔を愚かしいまでに残念に思った。もうどうすることもできないことなのであると、それを
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