おっしゃったものですから、差し上げたこともありましたけれど、ずいぶん長く御交渉はなくなっています」
「人臣の妻におなりになったからといって、あちらからお手紙をくださらなくなったのでしょうが、悲観させられますね。そのうち私から中宮へあなたが恨んでおいでになると申し上げよう」
 と薫は言う。
「そんなこと、お恨みなど私はしているものでございますか。いやでございます」
「身分が悪くなったからといって軽蔑《けいべつ》をなさるらしいから、こちらからは御遠慮して消息を差し上げないとそんなふうに言いましょう」
 こんなことを言ってその日は暮らし、翌日になって大将は中宮の御殿へまいった。例の兵部卿《ひょうぶきょう》の宮も来ておいでになった。丁子《ちょうじ》の香と色の染《し》んだ羅《うすもの》の上に、濃い直衣《のうし》を着ておいでになる感じは美しかった。一品《いっぽん》の宮《みや》のお姿にも劣らず、白く清らかな皮膚の色で、以前より少しお痩《や》せになったのがなおさらお美しく見せた。女宮によく似ておいでになるということから、またおさえている恋しさがわき上がるのを、あるまじいことであると思い、静めようとする
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