気づかれては叱《しか》られることであろうとあわてて帰って来た。襖子に寄り添った直衣《のうし》姿の男を見て、だれであろうと胸を騒がせながら、自分の姿のあらわに見られることなどは忘れて、廊下をまっすぐに急いで来るのであった。自分はすぐにここから離れて行ってだれであるとも知られまい、好色男らしく思われることであるからと思い、すばやく薫は隠れてしまった。その女房はたいへんなことになった、自分はお几帳《きちょう》なども外から見えるほどの隙《すき》をあけて来たではないか、左大臣家の公達《きんだち》なのであろう、他家の人がこんな所へまで来るはずはないのである、これが問題になればだれが襖子をあけたかと必ず言われるであろう、あの人の着ていたのは単衣《ひとえ》も袴《はかま》も涼絹《すずし》であったから、音がたたないで内側の人は早く気づかなかったのであろうと苦しんでいた。
薫は漸く僧に近い心になりかかった時に、宇治の宮の姫君たちによって煩悩《ぼんのう》を作り始め、またこれからは一品《いっぽん》の宮《みや》のために物思いを作る人になる自分なのであろう、その二十《はたち》のころに出家をしていたなら、今ごろは深
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