御養生をなさいまし」
と申して辞し去った。非常に悲しがっておいでになった、故人を哀れな存在とは見たが、現在の帝王と后《きさき》があれほど御大切にあそばされる皇子で、御|容貌《ようぼう》といい、学才と申して今の世に並ぶ人もない方で、すぐれた夫人たちをお持ちになりながら、あの人に心をお傾け尽くしになり、修法、読経《どきょう》、祭り、祓《はらい》とその道々で御|恢復《かいふく》のことに騒ぎ立っているのも、ただあの人の死の悲しみによってのことではないか、自分も今日の身になっていて、帝《みかど》の御女《おんむすめ》を妻にしながら、可憐《かれん》なあの人を思ったことは第一の妻に劣らなかったではないか、まして死んでしまった今の悲しみはどうしようもないほどに思われる、見苦しい、こんなふうにはほかから見られまいと忍んでいるのであるがと薫は思い乱れながら「人非木石皆有情《ひとほくせきにあらずみなうじやう》、不如不逢傾城色《しかずけいせいのいろにあはざるに》」と口ずさんで寝室にはいった。葬儀なども簡単に済ませたことを宮も飽き足らず思召したことであろうと哀れに思われて、母の身分がよろしくなくて、異父の弟など
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