お出逢いになって、こんなに命もあぶないまでに悲しんでおいでになるのであろうという人もあるために、大将もそれを知り、故人とは自分の想像したような関係を作っておいでになったらしい、手紙をおやりになったりするだけのことではないのであった、宮が御覧になれば必ず深い愛着をお覚えになるはずの人であった、生きていたならば自分は裏切られた男としての醜名を取らなければならないのであったと、こう思うようになってからは少し故人へのあこがれがさめた気のする薫であった。
兵部卿の宮の御病気見舞いに伺候せぬ人もなく、世間の騒ぎにもなっている場合であるのに、たいした喪というわけでもないのに、自分がお見舞いにならないのも僻見をいだいているように見られることであろうからと思い、薫は二条の院へ伺った。この時分に式部卿《しきぶきょう》の宮と言われておいでになった親王もお薨《かく》れになったので、薫は父方の叔父《おじ》の喪に薄鈍《うすにび》色の喪服を着けているのも、心の中では亡き愛人への志にもなる似合わしいことであると思っていた。顔は少し痩《や》せていよいよ艶《えん》に見えた。お見舞い客が皆去ったあとの静かな夕方であった。
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