尼が調じて出した。山中の途《みち》は陰気であったが山荘のながめは晴れ晴れしかった。自然の川をも山をも巧みに取り扱った新しい庭園をながめて、昨日までの仮|住居《ずまい》の退屈さが慰められる姫君であったが、どう自分を待遇しようとする大将なのであろうとその点が不安でならなかった。薫は京へ手紙を書いていた。
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未完成でした仏堂の装飾などについて、いろいろ指図《さしず》を要することがありまして、昨夜はそれに時を費やし、また今日はそれを備えつけるのに吉日でしたから、急に宇治へ出かけたのでした。ここまで来ますと疲れが出ましたのとともに、謹慎日であることに気がついたものですから、明日までずっと滞留することにしようと思います。
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というような文意で、母宮へも、夫人の宮へも書かれたのである。
部屋着になって、直衣《のうし》姿の時よりももっと艶《えん》に見える薫のはいって来たのを見ると、姫君は恥ずかしくなったが、顔を隠すこともできずそのままでいた。母の夫人の作らせた美服をいろいろと重ねて着ているが、少し田舎《いなか》風なところが混じって見えるのにも、昔の恋人
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