「ちょうどそんな仮住みをしているのは都合がよいというものですから、そうしてください」
 例の薫のようでもなくしいて言い、
「明後日《あさって》あたりに車をよこしましょう。そして仮住居の場所を車の者へ教えておいてください。私が訪《たず》ねて行くことがあっても無法なことなどできるものではないから安心なさい」
 と微笑しながら言うのを弁は聞いていて、迷惑なことが引き起こされるのではなかろうかと思いながらも、大将は浮薄な性質の人ではないのであるから、自分のためにも慎重に考えていてくれるに違いないという気になった。
「それでは承知いたしました。お邸《やしき》とは近いのでございますから、そちらへお手紙を持たせておつかわしくださいませ。平生行きません所へそのお話を私が独断《ひとりぎめ》で来てするように思われますのも、今さら伊賀刀女《いがとうめ》(そのころ媒介をし歩いた種類の女)になりましたようできまりが悪うございます」
「手紙を書くことはなんでもありませんがね、人はいろいろな噂《うわさ》をしたがるものですからね、右大将は常陸守《ひたちのかみ》の娘に恋をしているというようなことが言われそうで危険《け
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