源氏物語
東屋
紫式部
與謝野晶子訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)袖を濡《ぬ》らしけり

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)葉山|繁山《しげやま》を分け入る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ]
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[#地から3字上げ]ありし世の霧来て袖を濡《ぬ》らしけりわり
[#地から3字上げ]なけれども宇治近づけば  (晶子)

 源右大将は常陸守《ひたちのかみ》の養女に興味は覚えながらも、しいて筑波《つくば》の葉山|繁山《しげやま》を分け入るのは軽々しいことと人の批議するのが思われ、自身でも恥ずかしい気のされる家であるために、はばかって手紙すら送りえずにいた。ただ弁の尼の所からは母の常陸夫人へ、姫君を妻に得たいと薫《かおる》が熱心に望んでいることをたびたびほのめかして来るのであったが、真実の愛が姫に生じていることとも想像されず、薫のすぐれた人物であることは聞き知っていて、この縁談の受けられるほどの身の上であったならと悲観を母はするばかりであった。
 常陸守の子は死んだ夫人ののこしたのも幾人かあり
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