れしくなって、妹にこの事情も語らず、夫人のほうへも寄って行かずに帰り、仲人は守《かみ》の言ったことを、幸福そのものをもたらしたようにして少将へ報告した。少将は心に少し田舎者《いなかもの》らしいことを言うとは思ったが、うれしくないこともなさそうな表情をして聞いていた。大臣になる運動費でも出そうと言ったことだけはあまりな妄想《もうそう》であるとおかしかった。
「それについて奥さんのほうへは話して来たかね。奥さんの考えていた人と別な人と結婚をしようというのだからね。私の利己主義からそうなったなどと中傷をする人もあるだろうから、このことはどんなものだかね」
少し躊躇《ちゅうちょ》するふうを見せるのを仲人は皆まで言わせずに、
「そんな御心配は無用です。奥さんだって今度のお嬢さんを大事にしておられるのですからね。ただいちばん年長の娘さんで、婚期も過ぎそうになっている点で、前の方のことを心配して、そちらへ話をお取り次ぎになっただけのものですよ」
と言うのであった。今まではその人のことを特別に大事にしている娘であると言っていた同じ男の口から、にわかにこう言われるのを信じてよいかどうかわからぬとは少将も思ったが、やはり利己的な考えが勝ちを占めて、一度は恨めしがられ、誹謗《ひぼう》はされても、一生楽々と暮らしうることは願わしいと処世法の要領を得た男であったから、決心をして、夫人と約束をした日どりまでも変えずにその夜から常陸守《ひたちのかみ》の娘の所へ通い始めることにした。
夫人は良人《おっと》にも言わず一人で姫君の結婚の仕度《したく》をして、女房の服装を調べさせ、座敷の中などを品よく飾り、姫君には髪を洗わせ、化粧をさせてみると、少将などというほどの男の妻にするのは惜しいようで、憐《あわれ》むべき人である、父宮に子と認められて成長していたなら、たとえ宮のお亡《かく》れになったあとでも、源大将などの申し込みは晴れがましいことにもせよ、受け入れなくもなかったはずである、しかしながら自分の心だけではこうも思うものの、ほかから見れば守の子同然に思うことであろうし、また真相を知っても私生児と見てかえって軽蔑《けいべつ》するであろうことが悲しいなどと夫人は思い続けていた。どうすればいいのであろう、婚期の過ぎてしまうことも幸福でない、家柄のよい無事な男が今度のように懇切に言って来たのであるから与
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