》の横から脇息《きょうそく》によりかかって少し姿を現わしているのが非常に可憐《かれん》に見えた。
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「あきはつる野べのけしきもしの薄《すすき》ほのめく風につけてこそ知れ
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『わが身一つの』(おほかたのわが身一つのうきからになべての世をも恨みつるかな)」
と言ううちに涙ぐまれてくるのも、さすがに恥ずかしく扇で紛らしているその気分も愛すべきであると宮はお思われになるのであるが、こんな人であるからほかの男も忘れがたく思うのであろうと疑いをお持ちになるのが夫人の身に恨めしいことに相違ない。白菊がまだよく紫に色を変えないで、いろいろ繕われてあるのはことに移ろい方のおそい中にどうしたのか一本だけきれいに紫になっているのを宮はお折らせになり「花中偏愛菊《はなのなかにひとへにきくをあいす》」と誦《ず》しておいでになったが、
「某《なにがし》親王がこの花を愛しておいでになった夕方ですよ、天人が飛んで来て琵琶《びわ》の手を教えたというのはね。何事もあさはかになって天人の心を動かすような音楽というものはもはや地上からなくなってしまったのは情けない」
とお言いになり、楽器を下へ置いておしまいになったのを、中の君は残念に思い、
「人間の心だけはあさはかにもなったでしょうが、昔から伝わっております音楽などはそれほどにも堕落はしておりませんでしょう」
こう言って、自身でおぼつかなくなっている手を耳から探り出したいと願うふうが見えた。宮は、
「それでは単独《ひとり》で弾《ひ》いているのは寂しいものだから、あなたが合わせなさい」
とお言いになって、女房に十三|絃《げん》をお出させになって、夫人に弾かせようとあそばされるのだったが、
「昔は先生になってくださる方がございましたけれど、そんな時にもろくろく私はお習い取りすることはできなかったのですもの」
恥ずかしそうに言って、中の君は楽器に手を触れようともしない。
「これくらいのことにもまだあなたは隔てというものを見せるのは情けないではありませんか、このごろ通って行く所の人は、まだ心が解けるというほどの間柄になっていないのに、未成品的な琴を聞かせなさいと言えば遠慮をせずに弾きますよ。女は柔らかい素直なのがいいとあの中納言も言っていましたよ。あの人へはこんなに遠慮をばかり見せないのでしょう。非常な
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