にいやですね。けれどこの奥様をお捨てあそばすことにはならないでしょう。どんな新しい奥様をお持ちになっても、初めに深くお愛しになった方に対しては情けの残るものだと言いますからね」
などと言っているのも中の君の耳にはいってくる。見苦しいことである、もうどんなことになっても何とも自分からは言うまい、知らぬふうでいようとこの人が思っているというのは、人には批評をさせまい、自身一人で宮をお恨みしようと思うのであるかもしれない。
「そうじゃありませんか、宮様に比べてあの中納言様の情のお深さ」
とも老いた女は言い、
「あの方の奥様になっておいでにならないで、こちらの奥様におなりになったというのも不可解な運命というものですね」
こんなこともささやき合っていたのである。
宮は中の君を心苦しく思召《おぼしめ》しながらも、新しい人に興味を次々お持ちになる御性質なのであるから、先方に喜ばれるほどに美しく装っていきたいお心から、薫香《くんこう》を多くたきしめてお出かけになった姿は、寸分の隙《すき》もないお若い貴人でおありになった。六条院の東御殿もまた華麗であった。小柄な華奢《きゃしゃ》な姫君というのではなく、よいほどな体格をした新婦であったから、どんな人であろう、たいそうに美人がった柔らかみのない、自尊心の強いような女ではなかろうか、そんな妻であったならいやになるであろうと、こんなことを最初はお思いになったのであるが、そうではないらしくお感じになったのか愛をお持ちになることができた。秋の長夜ではあったが、おそくおいでになったせいでまもなく明けていった。
兵部卿の宮はお帰りになってもすぐに西の対へおいでになれなかった。しばらく御自身のお居間でお寝《やす》みになってから起きて新夫人の文《ふみ》をお書きになった。あの御様子ではお気に入らないのでもなかったらしいなどと女房たちは陰口《かげぐち》をしていた。
「対の奥様がお気の毒ですね。どんなに大きな愛を宮様が持っておいでになっても、自然|気押《けお》されることも起こるでしょうからね」
ただの主従でない関係も宮との間に持っている人が多かったから、ここでも嫉妬《しっと》の気はかもされているのである。あちらからの返事をここで見てからと宮は思っておいでになったのであるが、別れて明かしたのもただの夜でないのであるから、どんなに寂しく思っていることで
前へ
次へ
全62ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング