なるまい、たとえどこにもせよおいでになる所へ自分を迎えてほしい、こんなに悲しい思いばかりを見ている自分たちを捨ててお置きになって、父君は夢にさえも現われてきてはくださらないではないかと思い続けて、夕方の空の色がすごくなり、時雨《しぐれ》が降り、木立ちの下を吹き払う風の音を寂しく聞きながら、過去のこと、のちの日のことをはかなんで病床にいる姿には、またもない品よさが備わり、白の衣服を着て、頭は梳《す》くこともしないでいるのであるが、もつれたところもなくきれいに筋がそろったまま横に投げやりになっている髪の色に少し青みのできたのも艶《えん》な趣を添えたと見える。目つき額つきの美しさはすぐれた女の顔というもののよくわかる人に見せたいようであった。うたた寝していたほうの女王は、荒い風の音に驚かされて起き上がった。山吹《やまぶき》の色、淡紫《うすむらさき》などの明るい取り合わせの着物は着ていたが顔はまたことさらに美しく、染めたように美しく、花々とした色で、物思いなどは少しも知らぬというようにも見えた。
「お父様を夢に見たのですよ。物思わしそうにして、ちょうどこの辺の所においでになりましたわ」
と言うのを聞いて病女王の心はいっそう悲しくなった。
「お亡《かく》れになってから、どうかして夢の中ででもお逢《あ》いしたいと私はいつも思っているのに少しも出ておいでにならないのですよ」
と言ったあとで、二人は非常に泣いた。このごろは明け暮れ自分が思っているのであるから、ふと出ておいでになることもあったのであろう、どうしても父君のおそばへ行きたい、人の妻にもならず、子なども持たない清い身を持ってあの世へ行きたい、と大姫君は来世のことまでも考えていた。支那《しな》の昔にあったという反魂香《はんごんこう》も、恋しい父君のためにほしいとあこがれていた。暗くなってしまったころに兵部卿の宮のお使いが来た。こうした一瞬間は二女王の物思いも休んだはずである。中の君はすぐに読もうともしなかった。
「やっぱりおとなしくおおような態度を見せてお返事を書いておあげなさい。私がこのまま亡くなれば、今以上にあなたは心細い境遇になって、どんな人の媒介役を女房が勤めようとするかもしれないのですからね。私はそれが気がかりで、心の残る気もしますよ。でもこの方が時々でも手紙を送っておいでになるくらいの関心をあなたに持っていら
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