になりまして、突然に時々近郊の御旅行と申すようなことをお思い立ちになるのでございます。御軽率すぎることだと世間でもよろしくはお噂《うわさ》いたしません」
 と左大臣の息子《むすこ》の衛門督《えもんのかみ》がそっと中宮へ申し上げたために、中宮も御心配をあそばし、帝《みかど》も常から宮のお身持ちを気づかわしく思召していられたのであったから、これによっていっそう監視が厳重になり、兵部卿の宮を宮中から一歩もお出しにならぬような計らいをあそばされた。そして左大臣の六女との結婚はお諾《ゆる》しにならなかった宮へ、強制的にその人を夫人になさしめたもうというようなこともお定めになった。中納言はそれを聞いて憂鬱《ゆううつ》になっていた。自分があまりに人と変わり過ぎているのである、どんな宿命でか八の宮が姫君たちを気がかりに仰せられた言葉も忘られなかったし、またその女王たちもすぐれた女性であるのを発見してからは、世間に無視されていることがあまりに不合理に惜しいことに思われ、人の幸福な夫人にさせたいことが念頭を去らなかったし、ちょうど兵部卿の宮も熱心に希望あそばされたことであったために、自分の対象とする姫君は違っているのに、今一人の女王を自分に娶《めと》らせようと当の人がされるのをうれしくなく思うところから、宮とその方とを結ばせてしまった。今思うとそれは軽率なことであった。二人とも自分の妻にしても非難する人はなかったはずである、今さら取り返されるものではないが、愚かしい行動をしたと煩悶《はんもん》をしているのである。
 宮はまして宇治の女王《にょおう》がお心にかからぬ時とてもなかった。恋しくお思いになり、知らぬまにどんなことになっているかもしれぬという不安もお覚えになるのである。
「非常にお気に入った人がおありになるのだったら、私の女房の一人にしてここへ来させて、目だたない愛しようをしていればいいでしょう。あなたは東宮様、二の宮さんに続いて特別なものとして未来の地位をお上《かみ》はお考えになっていらっしゃるのですから、軽率な恋愛問題などを起こして、人から指弾されるのはよろしくありませんからね」
 こんなふうに中宮《ちゅうぐう》は始終御忠告をあそばされるのであった。
 はげしく時雨《しぐれ》が降って御所へまいる者も少ない日、兵部卿の宮は姉君の女一《にょいち》の宮《みや》の御殿へおいでになった
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