の中もそれに準じて白んでいくのである。二人とも艶《えん》な容姿の男女であった。
「同じほどの友情を持ち合って、こんなふうにいつまでも月花に慰められながら、はかない人生を送りたいのですよ」
 薫がなつかしいふうにこんなことをささやくのを聞いていて、女王はようやく恐怖から放たれた気もするのであった。
「こんなにあからさまにしてお目にかかるのでなく、何かを隔ててお話をし合うのでしたら、私はもう少しも隔てなどを残しておかない心でおります」
 と女は言った。外は明るくなりきって、幾種類もの川べの鳥が目をさまして飛び立つ羽音も近くでする。黎明《れいめい》の鐘の音がかすかに響いてきた、この時刻ですらこうしてあらわな所に出ているのが女は恥ずかしいものであるのにと女王は苦しく思うふうであった。
「私が恋の成功者のように朝早くは出かけられないではありませんか。かえってまた他人はそんなことからよけいな想像をするだろうと思われますよ。ただこれまでどおり普通に私をお扱いくださるのがいいのですよ。そして世間のとは内容の違った夫婦とお思いくだすって、今後もこの程度の接近を許しておいてください。あなたに礼を失うような真似《まね》は決してする男でないと私を信じていてください。これほどに譲歩してもなおこの恋を護《まも》ろうとする男に同情のないあなたが恨めしくなるではありませんか」
 こんなことを言っていて、薫はなおすぐに出て行こうとはしない。それは非常に見苦しいことだと姫君はしていて、
「これからは今あなたがお言いになったとおりにもいたしましょう。今朝《けさ》だけは私の申すことをお聞き入れになってくださいませ」
 と言う。いかにも心を苦しめているのが見える。
「私も苦しんでいるのですよ。朝の別れというものをまだ経験しない私は、昔の歌のように帰り路《みち》に頭がぼうとしてしまう気がするのですよ」
 薫《かおる》が幾度も歎息《たんそく》をもらしている時に、鶏もどちらかのほうで遠声ではあるが幾度も鳴いた。京のような気がふと薫にした。

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山里の哀れ知らるる声々にとりあつめたる朝ぼらけかな
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 姫君はそれに答えて、

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鳥の音も聞こえぬ山と思ひしをよにうきことはたづねきにけり
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 と言った。姫君の居間の襖子《からか
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