悶《はんもん》をしながら、故|女王《にょおう》の言ったとおりに、短命で死ぬ人の代わりに中の君を娶《めと》るのもよかった、自分の身を分けた同じものに思えと言われても、恋の相手を変える気にその当時の自分はなれなかった、こんな孤独の人にして物思いをさせるのであったなら、故人を忍ぶ相手として二人で語り合う身になっておればよかったのであるとも思った。かりそめにも京へ出ることをせず、物思いをしてこもっていることを知って、世間の人も故人を薫が深く愛していたことを知り、宮中をはじめとして諸方面からの慰問の使いが山荘を多く訪《おとず》れた。
女王の歿後《ぼつご》の日はずんずんとたっていく。七日七日の法要にも尊いことを多くして志の深い弔いを故人のために怠らぬ源中納言も、妻を失った良人《おっと》でないため喪服は着けることのできないため、ことに大姫君を尊敬して仕えた女房らの濃い墨染めの袖《そで》を見ても、
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くれなゐに落つる涙もかひなきはかたみの色を染めぬなりけり
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こんなことがつぶやかれ、浅い紅《くれない》の下の単衣《ひとえ》の袖を涙に濡《ぬ》らしているこの人は、あくまで艶《えん》できれいであった。女房たちがのぞきながら、
「姫君のお亡《かく》れになった悲しみは別として、この殿様がこちらにずっとおいでくださいますことに私たちはもう馴《な》らされていて、忌が済んでお帰りになることを思うと、お別れが惜しくて悲しいではありませんか。なんという宿命でしょう。こんなに真心の深い方をお二方とも御冷淡になすって、御縁をお結びにならなかったとはね」
とも言って泣き合っていた。
「こちらの姫君をあの方のお形見とみなして、今後はいろいろ昔の話を申し上げ、また承りもしたいと思うのです。他人のように思召さないでください」
と薫は中の君へ言わせたが、すべての点で自分は薄命な女であると思う心から恥じられて、中の君はまだ話し合おうとはしなかった。この女王のほうはあざやかな美人で、娘らしいところと、気高《けだか》いところは多分に持っていたが、なつかしい柔らかな嫋々《じょうじょう》たる美というものは故人に劣っていると事に触れて薫は思った。
雪の暗く降り暮らした日、終日物思いをしていた薫は、世人が愛しにくいものに言う十二月の月の冴《さ》えてかかった空を、御簾《みす
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