かれん》で、はなやかで、柔らかみがあっておおような様子は、名高い女一《にょいち》の宮《みや》の美貌《びぼう》もこんなのであろうと、ほのかにお姿を見た昔の記憶がまたたどられた。いざって出て、
「あちらの襖子は少しあらわになっていて心配なようね」
 と言い、こちらを見上げた今一人にはきわめて奥ゆかしい貴女《きじょ》らしさがあった。頭の形、髪のはえぎわなどは前の人よりもいっそう上品で、艶《えん》なところもすぐれていた。
「あちらのお座敷には屏風《びょうぶ》も引いてございます。何もこの瞬間にのぞいて御覧になることもございますまい」
 と安心しているふうに言う若い女房もあった。
「でも何だか気が置かれる。ひょっとそんなことがあればたいへんね」
 なお気がかりそうに言って、東の室《ま》へいざってはいる人に気高《けだか》い心憎さが添って見えた。着ているのは黒い袷《あわせ》の一|襲《かさね》で、初めの人と同じような姿であったが、この人には人を惹《ひ》きつけるような柔らかさ、艶《えん》なところが多くあった。また弱々しい感じも持っていた。髪も多かったのがさわやいだ程度に減ったらしく裾のほうが見えた。その色は翡翠《ひすい》がかり、糸を縒《よ》り掛けたように見えるのであった。紫の紙に書いた経巻を片手に持っていたが、その手は前の人よりも細く痩《や》せているようであった。立っていたほうの姫君が襖子の口の所へまで行ってから、こちらを向いて何であったか笑ったのが非常に愛嬌《あいきょう》のある顔に見えた。



底本:「全訳源氏物語 下巻」角川文庫、角川書店
   1972(昭和47)年2月25日改版初版発行
   1995(平成7)年5月30日40版発行
※このファイルは、古典総合研究所(http://www.genji.co.jp/)で入力されたものを、青空文庫形式にあらためて作成しました。
※校正には、2002(平成14)年4月10日44版を使用しました。
入力:上田英代
校正:kompass
2004年3月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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