ずつ鳥の足跡のように書きつけてあって、
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目の前にこの世をそむく君よりもよそに別るる魂《たま》ぞ悲しき
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という歌もある。また奥に、
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珍しく承った芽ばえの二葉を、私|風情《ふぜい》が関心を持つとは申されませんが、
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命あらばそれとも見まし人知れず岩根にとめし松の生《お》ひ末
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よく書き終えることもできなかったような乱れた文字でなった手紙であって、上には侍従の君へと書いてあった。蠹《しみ》の巣のようになっていて、古い黴《かび》臭い香もしながら字は明瞭《めいりょう》に残って、今書かれたとも思われる文章のこまごまと確かな筋の通っているのを読んで、実際これが散逸していたなら自分としては恥ずかしいことであるし、故人のためにも気の毒なことになるのであった、こんな苦しい思いを経験するものは自分以外にないであろうと思うと薫の心は限りもなく憂鬱《ゆううつ》になって、宮中へ出ようとしていた考えも実行がものうくなった。母宮のお居間のほうへ行ってみると、無邪気な若々しい御様子で経を読
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