私が熱心に見てやらなくなってもう長くなりますからね。現在家の者の弾いているものは皆前の川の波音を標準にして稽古《けいこ》をしているだけの我流の芸にすぎません。むろん普通の拍子には合わないものになっているのですよ」
そのあとで、
「箏《そう》の琴をお弾きなさい」
と姫君の居間のほうへ言っておやりになったが、
「何も知らずに弾いていたのを、聞かれただけでも恥ずかしいのに、公然とまずいものをお聞かせできるものでない」
女王は二人とも弾くのを肯《がえん》じない。父宮はたびたび勧めにおやりになったが、何かと口実を作って断わり、弾こうと姫君たちのしないのを薫は残念に思った。宮は片親でお育てになった姫君たちが素直にお言葉どおりのことをしないのを恥ずかしく思召すふうであった。
「女の子供のいることをなるべく人に知らせたくないと思ってね、私はだれも頼まずに自分の手だけで教育もしてきたのですが、もういつどうなるかもしれぬ命になってみると、さすがにまだ若い者は将来どんなふうにおちぶれてしまうことかと、その気がかりだけがこの世を辞して行く際の道の障《さわ》りになる気がするのです」
とお言いになるのに、
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