と申すことを覚えておいていただくためにお話しいたします。三条の宮にお仕えしておりました小侍従が亡《な》くなりましたことはほのかに聞いて承知しておりました。昔親しくいたしました同じ年ごろの人がたいてい亡くなりましたあとで、この五、六年こちらの宮家へ私は御奉公いたしております。ご存じではございますまい、ただいま藤《とう》大納言と申し上げます方のお兄様で、衛門督《えもんのかみ》でお亡《かく》れになりました方のことを何かの話の中ででもお聞きになったことがございますでしょうか。私どもにとりましては、お亡れになりましたのがまだ昨日《きのう》のようにばかり思われまして、その時の悲しみが忘れられないのでございますが、数えてみますと、あなた様がこんな大人《おとな》にまでなっておいでになるだけの年月がたっているのでございますから、夢のようですよ。私はつまらない女でございましたが、人に知らせてならぬことで、しかもお心でお思いになりますことを私には時々お話ししてくだすったのでございました。御病気がお悪くて、もう頼みのない時になりまして、私をお呼びになって、少し御遺言をあそばしたことがあるのでございます。それは
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