ているという話は聞いたが、機会もなくて、宮の有名な琴の御音も自分はまだお聞きすることができないのである、ちょうどよい時であると思って山荘の門をはいって行くと、その声は琵琶《びわ》であった。所がらでそう思われるのか、平凡な楽音とは聞かれなかった。掻《か》き返す音もきれいでおもしろかった。十三|絃《げん》の艶《えん》な音も絶え絶えに混じって聞こえる。しばらくこのまま聞いていたく薫は思うのであったが、音はたてずにいても、薫のにおいに驚いて宿直《とのい》の侍風の武骨らしい男などが外へ出て来た。こうこうで宮が寺へこもっておいでになるとその男は言って、
「すぐお寺へおしらせ申し上げましょう」
 とも言うのだった。
「その必要はない。日数をきめて行っておられる時に、おじゃまをするのはいけないからね。こんなにも途中で濡《ぬ》れて来て、またこのまま帰らねばならぬ私に御同情をしてくださるように姫君がたへお願いして、なんとか仰せがあれば、それだけで私は満足だよ」
 と薫が言うと、醜い顔に笑《えみ》を見せて、
「さように申し上げましょう」
 と言って、あちらへ行こうとするのを、
「ちょっと」
 と、もう一度薫
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