々しくばかりなっておしまいになりますのに、あなた様の御好意のかたじけなさは、私ども風情《ふぜい》のつまらぬ者さえも驚きの目をみはるばかりでございます。でございますから、お若い女王様がたも常に感激はしておいでになりながらも、そのとおりにお話しあそばすことはおできにならないのでございましょう」
 控えめにせず物なれたふうに言い続けることに反感は起こりながらも、この人の田舎《いなか》風でなく上流の女房生活をしたらしい品のよい声《こわ》づかいに薫は感心して、
「取りつきようもない皆さんばかりでしたのに、あなたが出て来てくださいまして、私の誠心誠意をくんでいてくださる方を得ましたことは、私の大きい幸福です」
 こう御簾に身を寄せて言っている薫を、几帳《きちょう》の間からのぞいて見ると、曙《あけぼの》の光でようやく物の色がわかる時間であったから、簡単な服装をわざわざして来たらしい狩衣《かりぎぬ》姿の、夜露に濡《ぬ》れたのもわかったし、またこの世界のものでないような芳香もそこには漂っていることにも気づかれた。この老女はどうしたのか泣きだした。
「あまり出すぎたことをしてお気持ちを悪くしましてはと存じまして、私は自分をおさえておりましたが、悲しい昔の話をどうかして機会を作りまして、少しでもお話しさせていただき、あなた様の御承知あそばさなかったことを、お知らせもしたいということを私は長い間仏様の念誦《ねんず》をいたしますにも混ぜて願っておりましたその効験で、こうしたおりが得られたのでしょうが、お話よりも先に涙におぼれてしまいまして、申し上げることができません」
 身体《からだ》を慄《ふる》わせて言う老女の様子に真剣味が見えて、老人はだれもよく泣くものであると知っている薫《かおる》であったが、こんなにまで悲しがるのが不思議に思われて、
「この御山荘へ伺うことになりましてからずいぶん年月はたちますが、こちらのほうにも一人もおなじみがなくて寂しくばかり思われていたのです。昔のことを知っておいでになるというあなたにお逢《あ》いすることができて、私はにわかに心強くなったのですから、この機会に何でもお話しください」
 と言った。
「ほんとうにこんなよいおりはございません。またあるといたしましても、私は老人でございますから、それまでにどうなるかもしれたものではありませんので、ただこうした老女がいる
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