な人数にして八の宮をお訪ねしようとした。河の北の岸に山荘はあったから船などは要しないのである。薫は馬で来たのだった。宇治へ近くなるにしたがい霧が濃く道をふさいで行く手も見えない林の中を分けて行くと、荒々しい風が立ち、ほろほろと散りかかる木の葉の露がつめたかった。ひどく薫は濡《ぬ》れてしまった。こうした山里の夜の路《みち》などを歩くことをあまり経験せぬ人であったから、身にしむようにも思い、またおもしろいように思われた。
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山おろしに堪へぬ木の葉の露よりもあやなく脆《もろ》きわが涙かな
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村の者を驚かせないために随身に人払いの声も立てさせないのである。左右が柴垣《しばがき》になっている小路《こみち》を通り、浅い流れも踏み越えて行く馬の足音なども忍ばせているのであるが、薫の身についた芳香を風が吹き散らすために、覚えもない香を寝ざめの窓の内に嗅《か》いで驚く人々もあった。
宮の山荘にもう間もない所まで来ると、何の楽器の音とも聞き分けられぬほどの音楽の声がかすかにすごく聞こえてきた。山荘の姉妹《きょうだい》の女王《にょおう》はよく何かを合奏しているという話は聞いたが、機会もなくて、宮の有名な琴の御音も自分はまだお聞きすることができないのである、ちょうどよい時であると思って山荘の門をはいって行くと、その声は琵琶《びわ》であった。所がらでそう思われるのか、平凡な楽音とは聞かれなかった。掻《か》き返す音もきれいでおもしろかった。十三|絃《げん》の艶《えん》な音も絶え絶えに混じって聞こえる。しばらくこのまま聞いていたく薫は思うのであったが、音はたてずにいても、薫のにおいに驚いて宿直《とのい》の侍風の武骨らしい男などが外へ出て来た。こうこうで宮が寺へこもっておいでになるとその男は言って、
「すぐお寺へおしらせ申し上げましょう」
とも言うのだった。
「その必要はない。日数をきめて行っておられる時に、おじゃまをするのはいけないからね。こんなにも途中で濡《ぬ》れて来て、またこのまま帰らねばならぬ私に御同情をしてくださるように姫君がたへお願いして、なんとか仰せがあれば、それだけで私は満足だよ」
と薫が言うと、醜い顔に笑《えみ》を見せて、
「さように申し上げましょう」
と言って、あちらへ行こうとするのを、
「ちょっと」
と、もう一度薫
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