左の手で抑《おさ》え、右の手で抑えて幾度か袖《そで》を斜めにするこの時の風の動きに庭の梅の香がさっと家の中へはいってきて、源中将が身に持つにおいを誘うのも艶な趣のあることであった。わずかな透き間からのぞく女房なども、
「闇《やみ》はあやなし(梅の花色こそ見えね香やは隠るる)という時間にもあの方のにおいだけはだれにだってわかります」
と言って薫をほめていた。大臣もそう思っていた。容貌《ようぼう》も風采《ふうさい》も平生以上にまたすぐれて見える薫が行儀正しく坐《ざ》しているのを見て、
「右近衛《うこんえ》の中将も声をお加えなさい。あまりに客らしくしているではありませんか」
と言うと、感じのよいほどの中音で、「神のます」など、求子《もとめこ》の一ふしをうたった。
底本:「全訳源氏物語 下巻」角川文庫、角川書店
1972(昭和47)年2月25日改版初版発行
1995(平成7)年5月30日40版発行
※このファイルは、古典総合研究所(http://www.genji.co.jp/)で入力されたものを、青空文庫形式にあらためて作成しました。
※校正には、2002(平成14)年4月10日44版を使用しました。
※「一品」のルビは底本では「いっぼん」となっていましたが、「匂宮」以外の作品では「いっぽん」で統一されていましたので直しました。
入力:上田英代
校正:高橋真也
2003年8月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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