十分にその姿を見ることができるであろうか、どんな世にまためぐり合うことができるのであろうかとばかりあこがれておいでになった。夜明けに部屋《へや》へさがって行く女房なのであろうが、
「まあずいぶん降った雪」
と縁側で言うのが聞こえた。その昔の時のままなようなお気持ちがされるのであったが、夫人は御横にいなかった。なんという寂しいことであろうと院は思召《おぼしめ》した。
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うき世にはゆき消えなんと思ひつつ思ひのほかになほぞ程《ほど》経《ふ》る
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こうした時を何かによって紛らわしておいでになる院は、すぐに召し寄せて手水《ちょうず》をお使いになった。女房たちは埋《うず》んでおいた火を起こし出して火鉢《ひばち》をおそばへおあげするのであった。中納言の君や中将の君はお居間に来てお話し相手を勤めた。
「独《ひと》り寝《ね》がなんともいえないほど寂しく思われる夜だった。これでも安んじていられる自分だのに、つまらぬ関係をたくさんに作ってきたものだ」
とめいったふうに院は言っておいでになった。自分までもここを捨てて行ったなら、この人たちはどんなに憂鬱《
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