ました。病中と申してもあまり失礼ですから」
 といって、女王は几帳《きちょう》を引き寄せて横になるのであったが、平生に超《こ》えて心細い様子であるために、どんな気持ちがするのかと不安に思召《おぼしめ》して、宮は手をおとらえになって泣く泣く母君を見ておいでになったが、あの最後の歌の露が消えてゆくように終焉《しゅうえん》の迫ってきたことが明らかになったので、誦経《ずきょう》の使いが寺々へ数も知らずつかわされ、院内は騒ぎ立った。以前も一度こんなふうになった夫人が蘇生《そせい》した例のあることによって、物怪《もののけ》のすることかと院はお疑いになって、夜通しさまざまのことを試みさせられたが、かいもなくて翌朝の未明にまったくこと切れてしまった。
 宮もお居間にお帰りにならぬままで臨終に立ち会えたことを、うれしくも悲しくも思召した。御良人《ごりょうじん》も御娘《みむすめ》も、これを人生の常としてだれも経験していることとはお思いになれないで、言語に絶した悲しみ方をしておいでになるのである。二条の院の中は絶望して心を取り乱した人ばかりになった。院はお心の静めようもないふうで、大将を几帳のそばへお呼び寄
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