いは杯を賜わり、御|纏頭《てんとう》をいただいた。
参っていた人々の車を出て行く順序どおりに直したり、そちらこちらの前駆を勤める人たちが門内を右往左往するのとで、静かであった音楽の夜も乱れてしまった。六条院のお車に兵部卿の宮も御同乗になった。左大将、左衛門督《さえもんのかみ》、藤参議《とうさんぎ》などという人たちも皆お供をして出た。皆軽い直衣《のうし》姿であったのが下襲《したがさね》を加えて院参をするのであった。月がやや高くなって美しくふけた夜に、若い殿上人などに、わざとらしくなく笛をお吹かせになって、微行の御外出をされるのである。威儀の必要な時には正しく備うべきを備えて御往復になるのであるが、今夜は昔の一源氏の大臣のお気持ちで突然にお訪《たず》ねになったのであるから、冷泉院は非常にお喜びになった。御|美貌《びぼう》の整いきった冷泉院と、六条院はいよいよ別のものとはお見えにならなかった。まだ盛りの御年齢で御自発的に御位《みくらい》をお退《の》きになった君に六条院は悲しみを覚えておいでになった。この夜できた詩歌は皆非常におもしろかったが、片端だけを例の至らぬ筆者が写しておくのもやましい気がしてすべてを省くことにした。明け方にそれらの作が講ぜられて、人々は早朝に院から退出した。
六条院は中宮のお住居《すまい》のほうへおいでになってしばらくお話しになった。
「ただ今はこうして御閑散なのですから、始終お伺いして、何ということもありませんが年のいくのとさかさまにますます濃くなる昔の思い出についてお話もし、承りもしたいのを果たすことがなかなか困難です。出家をしたのでもなし、俗人でもないような身の上で、行動の窮屈な点があります。どちらにも私よりあとに志を起こして先へ進まれる求道者が多いのですから心細くて、思いきって田舎《いなか》の寺へはいることにしようかともいよいよ近ごろは思われるのですが、あとの家族たちに関心をお持ちくださるようには以前からもお頼みしていることですが、その時になりましたら憐《あわれ》みをお垂《た》れになってください」
などと六条院はまじめな御様子でお語りになった。今も若々しくおおような調子で、中宮は、
「宮中住まいをしておりましたころよりも、お目にかかります機会がだんだん少なくなってまいりますことも、予期せぬことでございましたから寂しゅうございましてね。皆
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