《ずきょう》をさせ、またそのほか故人と縁故のある寺でも同じく経を読ませた。この笛を歴史的価値のある物として、好意で自分へ贈った人に対しては、それがどんな尊いことであっても寺へ納めたりしてしまうことも不本意なことであると思って、大将は六条院へ参った。
 その時院は姫君の女御《にょご》の御殿へ行っておいでになった。三歳ぐらいになっておいでになる三の宮を女一の宮と同じように紫の女王《にょおう》がお養いしていて、対へお置き申してあるのであるが、大将が行くと走っておいでになって、
「大将さん、私を抱いてあちらの御殿へつれて行ってちょうだい」
 うやうやしい態度で、そしてお小さい方らしくお言いになると、大将は笑って、
「いらっしゃいませ。けれど女王様のお御簾《みす》の前をどうしてお通りいたしましょう。私よりもあなた様がお困りになりましょう」
 こう言いながらすわった膝《ひざ》へ宮を抱いておのせすると、
「だれも見ないよ。いいよ。私顔を隠して行くから」
 宮が袖《そで》を顔へお当てになるのもおかわいらしくて大将はそのまま寝殿のほうへお抱きして行った。
 こちらの御殿のほうでも院が宮の若君と二の宮がい
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