から思われるだろうと考えますから、いつまでも友情は捨てないつもりでおります。想夫恋をお弾《ひ》きになりましたことで御非難のお言葉がございましたが、あちらが進んでなすったことであればそれは決しておもしろい話ではございませんが、私の参ります前から弾いておいでになりました琴を、ただ少しばかり私の想夫恋に合わせてくださいましたのですから、非常にその場の情景にかなってよかったのでございます。どんなこともその女性次第だと思います。御年齢などもきらきらとする若さを少し越えていらっしゃいます方が、好色漢のような態度をお見せするはずもない私に、親しい友情が生じまして、私の願ったことが聞いていただけたというようなことは恥ずかしいこととは思われません。御観察申し上げるところでは非常に女らしい優しい御性質のようです」
こんな話をしていた大将は、かねて願っている機会が到来したように思い、少し院のお座へ近づいて昨夜《ゆうべ》の夢の話をした。ものも言わずに聞いておいでになった院のお心の中にはお思い合わせになることがあった。
「その笛は私の所へ置いておく因縁があるものなのだよ。昔は陽成《ようぜい》院の御物《ぎょぶつ》だったものなのだがね。私の叔父《おじ》のお亡《な》くなりになった式部卿《しきぶきょう》の宮が秘蔵しておいでになったのを、あの衛門督《えもんのかみ》は子供の時から笛がことによくできたものだから、宮のお邸《やしき》で萩《はぎ》の宴のあった時に贈り物としてお与えになったのだ。御婦人がたは深いお考えもなしに君へ贈られたのだろう」
院はこうお言いになるのであった。御心中ではまず手もとへ置こう、死後にもとの持ち主の譲らせたい人は分明であると思召《おぼしめ》された。聡明《そうめい》な大将にはもう想像ができていて、今持ち合わせてもいるのであろうとお思いになるのであった。すべてを察しになった院のお顔色を見てはいっそう大将は打ち出しにくくなるのであるが、ぜひ伺ってみたい気持ちがあって、ただこの瞬間に心へ浮かんできたというようにして、思い出し思い出し申すように言う、
「もう衛門督が終焉《しゅうえん》に近いころでございました。見舞いにまいりました私に、いろいろ遺言をいたしました中に、六条院様に対して深い罪を感じているということを繰り返し繰り返し言ったのでございましたが、ただ御感情を害していると聞きましただ
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