れらの処置を皆しておくことにしたい。この院も妻としては冷ややかに見ても、今からの宮を不人情に放ってはおくまい。自分はその態度を見きわめておく必要があると思召して、
「では私がこちらへ来たついでにあなたの授戒を実行させることにして、それを私は御仏《みほとけ》から義務の一つを果たしたことと見ていただくことにする」
 と仰せられた。六条院は遺憾にお思いになった宮の御過失のこともお忘れになって、なんとなることかと心をお騒がせになって、悲しみにお堪えにならずに、几帳の中へおはいりになって、
「なぜそういうことをなさろうというのですか。もう長くも生きていない老いた良人《おっと》をお捨てになって、尼になどなる気になぜおなりになったのですか。もうしばらく気を静めて、湯をお飲みになったり、物を召し上がったりすることに努力なさい。出家をすることは尊いことでも、身体《からだ》が弱ければ仏勤めもよくできないではありませんか。ともかくも病気の回復をお計りになった上でのことになさい」
 とお話しになるのであるが、宮は頭《かしら》をお振りになって、おとめになるのを恨めしくお思いになるふうであった。何もお言いにはならなかったが、自分を恨めしくお思いになったこともあるのではないかとお気がつくと、かわいそうでならない気があそばされたのであった。いろいろと宮の御意志を翻《ひるが》えさせようと院が言葉を尽くしておいでになるうちに夜明け方になった。御寺《みてら》へお帰りになるのが明るくなってからでは見苦しいと法皇はお急ぎになって、祈祷《きとう》のために侍している僧の中から尊敬してよい人格者ばかりをお選びになり、産室《うぶや》へお呼びになって、宮のお髪《ぐし》を切ることをお命じになった。若い盛りの美しいお髪《ぐし》を切って仏の戒《かい》をお受けになる光景は悲しいものであった。残念に思召して六条院は非常にお泣きになった。また法皇におかせられては、御子の中でもとりわけお大事に思召された内親王で、だれよりも幸福な生涯《しょうがい》を得させたいとお思いあそばされた方を、未来の世は別としてこの世でははかない姿にお変えさせになったことで萎《しお》れておいでになって、
「たとえこうおなりになっても、健康が回復すればそれを幸福にお思いになって、できれば念誦《ねんず》だけでもよくお唱えしているようになさい」
 とお言いになった
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