馴《な》つきの悪い猫も衛門督にはよく馴れて、どうかすると着物の裾《すそ》へまつわりに来たり、身体《からだ》をこの人に寄せて眠りに来たりするようになって、衛門督はこの猫を心からかわいがるようになった。物思いをしながら顔をながめ入っている横で、にょうにょう[#「にょうにょう」に傍点]とかわいい声で鳴くのを撫《な》でながら、愛におごる小さき者よと衛門督はほほえまれた。

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「恋ひわぶる人の形見と手ならせば汝《なれ》よ何とて鳴く音《ね》なるらん
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 これも前生の約束なんだろうか」
 顔を見ながらこう言うと、いよいよ猫は愛らしく鳴くのを懐中《ふところ》に入れて衛門督は物思いをしていた。女房などは、
「おかしいことですね。にわかに猫を御|寵愛《ちょうあい》されるではありませんか。ああしたものには無関心だった方がね」
 と不審がってささやくのであった。東宮からお取りもどしの仰せがあって、衛門督はお返しをしないのである。お預かりのものを取り込んで自身の友にしていた。
 左大将夫人の玉鬘《たまかずら》の尚侍《ないしのかみ》は真実の兄弟に対するよりも右大将に多く兄弟の愛を持っていた。才気のあるはなやかな性質の人で、源大将の訪問を受ける時にも睦《むつ》まじいふうに取り扱って、昔のとおりに親しく語ってくれるため、大将も淑景舎《しげいしゃ》の方が羞恥《しゅうち》を少なくして打ち解けようとする気持ちのないようなのに比べて、風変わりな兄弟愛の満足がこの人から得られるのであった。左大将は月日に添えて玉鬘を重んじていった。もう前夫人は断然離別してしまって尚侍が唯一の夫人であった。この夫人から生まれたのは男の子ばかりであるため、左大将はそれだけを物足らず思い、真木柱《まきばしら》の姫君を引き取って手もとへ置きたがっているのであるが、祖父の式部卿《しきぶきょう》の宮が御同意をあそばさない。
「せめてこの姫君にだけは人から譏《そし》られない結婚を自分がさせてやりたい」
 と言っておいでになる。帝《みかど》は御|伯父《おじ》のこの宮に深い御愛情をお持ちになって、宮から奏上されることにお背《そむ》きになることはおできにならないふうであった。もとからはなやかな御生活をしておいでになって、六条院、太政大臣家に続いての権勢の見える所で、世間の信望も得ておいでになった。
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