《ぐぶ》者には高官も多数に混じっていた。姫宮を主公として結婚をしたいと望んだ大納言も失敗した恨みの涙を飲みながらお付きして来た。お車の寄せられた所へ六条院が出てお行きになって、宮をお抱きおろしになったことなどは新例であった。天子でおいでになるのではないから入内《じゅだい》の式とも違い、親王夫人の入輿《にゅうよ》とも違ったものである。
三日の間は御|舅《しゅうと》の院のほうからも、また主人の院からも派手《はで》な伺候者へのおもてなしがあった。紫の女王《にょおう》もこうした雰囲気《ふんいき》の中にいては寂しい気のすることであろうと思われた。夫人は静かにながめていながらも、院との間柄が不安なものになろうとは思わないのであるが、だれよりも愛される妻として動きのない地位をこれまで持った人も、若くて将来の長い内親王が競争者におなりになったのであるから、次第に自分が自分をはずかしめていく気がしないでもない心を、おさえて、おおように姫宮の移っておいでになる前の仕度《したく》なども院とごいっしょになってしたような可憐《かれん》な態度に院は感激しておいでになった。女三の宮はかねて話のあったようにまだきわめて小さくて、幼い人といってもあまりにまでお子供らしいのである。紫の女王を二条の院へお迎えになった時と院は思い比べて御覧になっても、その時の女王は才気が見えて、相手にしていておもしろい少女《おとめ》であったのに、これは単に子供らしいというのに尽きる方であったから、これもいいであろう、自尊心の多過ぎず出過ぎたことのできない点だけが安心であると、院はつとめて善意で見ようとされながらも、あまりに言いがいのない新婦であるとお歎《なげ》かれになった。
三日の間は続いてそちらへおいでになるのを、今日までそうしたことに馴《な》れぬ女王であったから、忍ぼうとしても底から底から寂しさばかりが湧《わ》いてきた。新婚時代の新郎の衣服として宮のほうへおいでになる院のお召し物へ女房に命じて薫香《たきもの》をたきしめさせながら、自身は物思いにとらわれている様子が非常に美しく感ぜられた。何事があっても自分はもう一人の妻を持つべきではなかったのである。この問題だけを謝絶しきれずに締まりがなく受け入れた自分の弱さからこんな悲しい思いをすることにもなったと、院は御自身の心が恨めしくばかりおなりになって、涙ぐんで、
「もう一晩だけは世間並みの義理を私に立てさせてやると思って、行くのを許してください。今日からあとに続けてあちらへばかり行くようなことをする私であったなら、私自身がまず自身を軽蔑《けいべつ》するでしょうね。しかしまた院がどうお思いになることだか」
と、お言いになりながら煩悶《はんもん》をされる様子がお気の毒であった。夫人は少し微笑をして、
「それ御覧なさいませ。御自身のお心だってお決まりにならないのでしょう。ですもの、道理のあるのが強味ともいっておられませんわ」
絶望的にこう女王に言われては、恥ずかしくさえ院はお思われになって、頬杖《ほおづえ》を突きながらうっとりと横になっておいでになった。紫の女王は硯《すずり》を引き寄せて無駄《むだ》書きを始めていた。
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目に近くうつれば変はる世の中を行く末遠く頼みけるかな
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と書き、またそうした意味の古歌なども書かれていく紙を、院は手に取ってお読みになり夫人の気持ちをお憐《あわれ》みになった。
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命こそ絶ゆとも絶えめ定めなき世の常ならぬ中の契りを
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こんな歌を書いて、急に立って行こうともされないのを見て、夫人が、
「おそくなっては済みませんことですよ」
と催促したのを機会に、柔らかな直衣《のうし》の、艶《えん》に薫香《たきもの》の香をしませたものに着かえて院が出てお行きになるのを見ている女王の心は平静でありえまいと思われた。これまでにさらに新婦を得ようとされるらしい気《け》ぶりはあっても、いよいよことが進行しそうな時に反省しておしまいになる院でおありになったから、ただもう何でもなく順調に幸福が続いていくとばかり信じていた末に、世間のものにも自分の位置をあやぶませるようなことが湧《わ》いてきた。永久に不変なものなどはないこうしたこの世ではまたどんな運命に自分は遭遇するかもしれないと女王は思うようになった。表面にこの動揺した気持ちは見せないのであるが、女房たちも、
「意外なことになるものですね。ほかの奥様がたはおいでになってもこちらの奥様の競争者などという自信を持つ方もなくて、御遠慮をしていらっしゃるから無事だったのですが、こんなふうにこの奥様をすら眼中にお置きあそばさないような方が出ていらっしってはどうなることでしょう。だれより
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