気にはちょっとなれない。やはり普通の男の妻には与えにくい気がする。昔の時代にも帝王の婿にはある一事の傑出した人物が選ばれたようだ。ただ都合のよいというようなことで人選をするのは恥ずかしいことだ。右衛門督《うえもんのかみ》がやはりその希望を持っているということを尚侍《ないしのかみ》が言っていたが、あれだけはすぐれた人物だから、官位がもう少し進んでいたら私も大いに考慮するが、まだ今のところでは地位が不十分だ。理想が高くてだれとも結婚をせずにまだ独身でいて思い上がった精神が実によい。学問も相当なものだし、廟堂《びょうどう》に立って仕事のできる点で将来も有望だが、私には愛女の婿はそれでもないという心がある。相当に濃厚にある」
こんなふうに仰せられて院はお心を悩ませておいでになった。多い候補者の中の婿選びを困難に思召《おぼしめ》す女三《にょさん》の宮《みや》以外の姉宮がたに求婚をする人はさてないのである。院がどんなにその一方《ひとかた》をお愛しになって、よい配偶をお決めになることに専心しておいでになるかということが、院内から自然に外へ聞こえ、自身を候補に擬しているものが多いのである。太政大臣も長男の右衛門督がまだ独身でいて、妻は内親王でなければ結婚はせぬと思うふうであるから、御降嫁が決定してだれもがお許しを願って出た時に、院の御婿に長男が選ばれたなら、どんなに自身のためにも光栄であるかしれないと考え、院の御|寵姫《ちょうき》の尚侍の所へは、その人の姉である夫人から言わせて運動もし、一方では直接お話も申し上げて懇請もしていた。兵部卿の宮は左大将の夫人に失恋をあそばされたのであるから、その夫婦に対してもりっぱでない結婚はできないようにお思いになって、夫人を選んでおいでになる場合であったから、お心の動かないわけはない。非常に熱心な求婚者で宮はおありになった。藤《とう》大納言は長い間院の別当をしていて、親しく奉仕して来た人であったから、院が御寺《みてら》へおはいりになれば有力な保護者を失いたてまつることになるのを、内親王と結婚をして今後も地位の保証を得たいという功利的な考えからしきりにお許しを乞《こ》うているのであった。源《げん》中納言も院の御婿の候補者が続出するのを見ては、この人には間接でなく、あれほどにも明瞭《めいりょう》に御意のあるところをお見せになったのであるから、中間によ
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