ては、さすがに溜息《ためいき》もつかれた。
 きれいな姫君を夢の中のような気持ちでながめながらも明石の涙はとまらなかった。しかしこれはうれしい涙であった。今までいろいろな場合に悲観して死にたい気のした命も、もっともっと長く生きねばならぬと思うような、朗らかな気分になることができて、いっさいが住吉《すみよし》の神の恩恵であると感謝されるのであった。理想的な教養が与えられてあって、足りない点などは何もないと見える姫君は、絶大な勢力のある源氏を父としているほかに、すぐれた麗質も備えていることで、若くいらせられる東宮ではあるがこの人を最も御|愛寵《あいちょう》あそばされた。東宮に侍している他の御息所《みやすどころ》付きの女房などは、源氏の正夫人でない生母が付き添っていることをこの御息所の瑕《きず》のように噂《うわさ》するのであるが、それに影響されるようなことは何もなかった。はなやかな空気が桐壺《きりつぼ》に作られて、芸術的なにおいをこの曹司で嗅《か》ぎうることを喜んで、殿上役人などもおもしろい遊び場と思い、ここのすぐれた女房を恋の対象にしてよく来るようになった。女房たちのとりなし、人への態度も
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