は、私にとって苦痛です。
[#ここで字下げ終わり]
こんなことばかりを書いて送るのであったが、玉鬘《たまかずら》は何とも返事を書かない。女房たちから、
[#ここから1字下げ]
源氏の大臣が、あまり短時日でなく、たまたま上がったのであるから、陛下がもう帰ってもよいと仰せになるまで上がっていて帰るようにとおっしゃいましたことですから。それに今晩とはあまり御無愛想なことになりませんかと私たちは存じます。
[#ここで字下げ終わり]
と大将の所へ書いて来た。大将は尚侍《ないしのかみ》を恨めしがって、
「あんなに言っておいたのに、自分の意志などは少しも尊重されない」
と歎息《たんそく》をしていた。
兵部卿の宮は御前の音楽の席に、その一員として列席しておいでになったのであるが、お心持ちは平静でありえなかった。尚侍の曹司ばかりがお思われになってならないのであった。堪えがたくなって宮は手紙をお書きになった。大将は自身の直廬《じきろ》のほうにいたのである。宮の御消息であるといって使いから女房が渡されたものを、尚侍はしぶしぶ読んだ。
[#ここから2字下げ]
深山木《みやまぎ》に翅《はね》うち交《か》はしゐる鳥のまたなく妬《ねた》き春にもあるかな
[#ここから1字下げ]
さえずる声にも耳がとどめられてなりません。
[#ここで字下げ終わり]
とあった。気の毒なほど顔を赤めて、何と返事もできないように尚侍が思っている所へ帝《みかど》がおいでになった。明るい月の光にお美しい竜顔《りゅうがん》がよく拝された。源氏の顔をただそのまま写したようで、こうしたお顔がもう一つあったのかというような気が玉鬘にされるのであった。源氏の愛は深かったがこの人が受け入れるのに障害になるものがあまりに多かった。帝との間にはそうしたものはないのである。帝はなつかしい御様子で、お志であったことが違ってしまったという恨みをお告げになるのであったが、尚侍は恥ずかしくて顔の置き場もない気がした。顔を隠して、お返辞もできないでいると、
「たよりない方だね。好意を受けてもらおうと思ったことにも無関心でおいでになるのですね。何にもそうなのですね。あなたの癖なのですね」
と仰せになって、
[#ここから1字下げ]
「などてかくはひ合ひがたき紫を心に深く思ひ初《そ》めけん
[#ここで字下げ終わり]
濃くはなれない運命だ
前へ
次へ
全26ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング