しく書かれてあるところを見ては、小説であると知りながら興奮をさせられますね。可憐《かれん》な姫君が物思いをしているところなどを読むとちょっと身にしむ気もするものですよ。また不自然な誇張がしてあると思いながらつり込まれてしまうこともあるし、またまずい文章だと思いながらおもしろさがある個所にあることを否定できないようなのもあるようですね。このごろあちらの子供が女房などに時々読ませているのを横で聞いていると、多弁な人間があるものだ、嘘を上手《じょうず》に言い馴《な》れた者が作るのだという気がしますが、そうじゃありませんか」
 と言うと、
「そうでございますね。嘘を言い馴れた人がいろんな想像をして書くものでございましょうが、けれど、どうしてもほんとうとしか思われないのでございますよ」
 こう言いながら玉鬘《たまかずら》は硯《すずり》を前へ押しやった。
「不風流に小説の悪口を言ってしまいましたね。神代以来この世であったことが、日本紀《にほんぎ》などはその一部分に過ぎなくて、小説のほうに正確な歴史が残っているのでしょう」
 と源氏は言うのであった。
「だれの伝記とあらわに言ってなくても、善《よ》い
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