け》つには消《け》ゆるものかは
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 御実験なすったでしょう」
 と宮はお言いになった。こんな場合の返歌を長く考え込んでからするのは感じのよいものでないと思って、玉鬘《たまかずら》はすぐに、

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声はせで身をのみこがす蛍こそ言ふよりまさる思ひなるらめ
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 とはかないふうに言っただけで、また奥のほうへはいってしまった。宮は疎々《うとうと》しい待遇を受けるというような恨みを述べておいでになった。あまり好色らしく思わせたくないと宮は朝まではおいでにならずに、軒の雫《しずく》の冷たくかかるのに濡《ぬ》れて、暗いうちにお帰りになった。杜鵑《ほととぎす》などはきっと鳴いたであろうと思われる。筆者はそこまで穿鑿《せんさく》はしなかった。
 宮の御|風采《ふうさい》の艶《えん》な所が源氏によく似ておいでになると言って女房たちは賞《ほ》めていた。昨夜《ゆうべ》の源氏が母親のような行き届いた世話をした点で玉鬘の苦悶《くもん》などは知らぬ女房たちが感激していた。玉鬘は源氏に持たれる恋心を自身の薄倖《はっこう》の現われであると思った。実の父に娘を認められた上では、これほどの熱情を持つ源氏を良人《おっと》にすることが似合わしくないことでないかもしれぬ、現在では父になり娘になっているのであるから、両者の恋愛がどれほど世間の問題にされることであろうと玉鬘は心を苦しめているのである。しかし真実は源氏もそんな醜い関係にまで進ませようとは思っていなかった。ただ恋を覚えやすい性格であったから、中宮などに対しても清い父親としてだけの愛以上のものをいだいていないのではない、何かの機会にはお心を動かそうとしながらも高貴な御身分にはばかられてあらわな恋ができないだけである。玉鬘は性格にも親しみやすい点があって、はなやかな気分のあふれ出るようなのを見ると、おさえている心がおどり出して、人が見れば怪しく思うほどのことも混じっていくのであるが、さすがに反省をして美しい愛だけでこの人を思おうとしていた。
 五日には馬場殿へ出るついでにまた玉鬘を源氏は訪《たず》ねた。
「どうでしたか。宮はずっとおそくまでおいでになりましたか。際限なく宮を接近おさせしないようにしましょう。危険性のある方だからね。力で恋人を征服しようとしない人は少ないからね」
 などと
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