えるほどの人もないのであった。個別的に見ればりっぱな人の多い時ではあるが、源氏の前では光彩を失ってしまうのが気の毒である。つまらぬ下僕《しもべ》なども主人に従って六条院へ来る時には、服装も身の取りなしをも晴れがましく思うのであったから、まして年若な高官たちは妙齢の姫君が新たに加わった六条院の参座には夢中になるほど容姿を気にして来て、平年と違った光景が現出された新春であった。春の花を誘う夕風がのどかに吹いていた。前の庭の梅が少し咲きそめたこの黄昏《たそがれ》時に、楽音がおもしろく起こって来た。「この殿」が最初に歌われて、はなやかな気分がまず作られたのである。源氏も時々声を添えた。福草《さきぐさ》の三つ葉四つ葉にというあたりがことにおもしろく聞かれた。どんなことにも源氏の片影が加わればそのものが光づけられるのである。こうしたはなやかな遊びも派手《はで》な人出入りの物音も遠く離れた所で聞いている紫の女王《にょおう》以外の夫人たちは、極楽世界に生まれても下品下生《げぼんげしょう》の仏で、まだ開かない蓮《はす》の蕾《つぼみ》の中にこもっている気がされた。まして離れた東の院にいる人たちは、年月に添
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